YamanoWeb.com ■山野浩一WORKS■

傑作集

東京創元社から2冊分のゲラがどさっと届いた。最も新しい
作品で30年前、初期作品は50年も前のものだから、私が高
校生のころに読んだものでいえば芥川龍之介とか、谷崎潤一
郎という時代のものを読むことになるのですね。若いころか
らできるだけ口語体を使うよう心掛けていたので、今とさほ
ど変わらないけれど、さまざまに用法や送り仮名も違ってい
て、すでに使われなくなっている言葉も多い。送り仮名など
は統一するとしても、言葉そのものはできるだけ残そうと思
う。それよりもまあ、なんと重苦しい小説なのだろう。読み
だすとほんとうに気が滅入ってしまう。自分が書いたのだか
ら文句をつけるのがお門違いなのだが、読者が「X電車で行こ
う」や「鳥はいまどこを飛ぶか」から一向に先へ進まないの
もよくわかる。みどり先生などは短編1本読んだだけだものね。
足立正生は「獄中であんなものを読まされる身になってみろ」
という。中井英夫は「ぐんぐん不安なところへ連れて行って、
そこへ放り出してしまう」と書評で書いていた。今となっては
どれもよくわかります。語彙や送り仮名以上にこれを読むのが
きついのですが、これが売り出されたらみんな同じ思いをする
んだなと・・とても申し訳ない。

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2時間ドラマ

なんともひどいものが多いのだが、それは物語が複雑で
一つ一つ謎解きをしていくような本格派のよくできたド
ラマだった。普段ならドラマを見ていても途中で寝てし
まうことが多いのに、それはみどり先生にも面白かった
ようで、ずっとテレビを見つめていた。しかも終わった
と同時に眠ってしまった。記憶の機能が失われていても
アクティヴには相当複雑なことまで考えられるようで、
たぶん、直感力とか、パターン認識は元気な時以上に
なっているのではないかと思う。

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ポップクラウン

地方競馬の最初のクラブ出資馬で、クラーベセクレタが活躍
したのでこちらでも買っておこうと思って、ま、40口になる
とただみたいな価格でもあり、クラブの出資実績で買えるの
で持てたが、これはすごい馬ですね。クロフネ産駒としては
フラムドパシオン以来じゃないかしら。南関東では今年のヴァ
レイオブローゼズまで、マズルブラスト、ステップクルーザー、
マグニフィカなどずっとクラシック戦線を戦うような馬を持っ
ていて、来年もこの馬でいけそうです。マズルブラストはも
う長く活躍できないだろうが、カザリムスビ、ヴァレイオブ
ローゼズの牝馬戦線も楽しみで、牝馬戦線は川島厩舎でない
ところも楽しみを大きくしています。

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箱根温泉

10月に箱根温泉行の手配をしてみどり先生に伝えると
退院を伝えた時と同じぐらいの喜びを示した。本当に
温泉行が最大の楽しみとなっているのだなと思う。
箱根へは都心から行くと遠いけれど、中央高速から河
口湖、御殿場、乙女峠を抜けると案外近く、おそらく
今のみどり先生の状態なら介護タクシーで頑張れるだ
ろう。箱根には意外にバリアフリーの旅館が少なく、
あっても貸切風呂や部屋食といった条件が満たされな
い。温泉によってこうした面での意識レベルに差があ
って、箱根では相当な高級旅館しか宿泊不可能なので
価格は相当高くなった。でも、箱根が大丈夫なら湯河
原、熱海などもみどり先生の旅行可能圏内となり、ぐ
んと楽しみが増えることになる。いつか新幹線にも乗
れるようになり、彼女が最も好きだった有馬温泉まで
行けるといいけれど、あそこもバリアーフリーは難し
いかもしれない。いっそ飛行機に乗れてバーデンとか
ロトルアとかへ行ければ、向こうはバリアーフリーが
当たり前なので、着いてからは快適に過ごせるだろう。

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最近のみどり先生

はというと、口を開いて眠ったり、もごもごと口を動かせたり、
いろいろと元気なころのみどり先生に近づいています。もしか
すれば幸せそうな寝顔も消えてしまうかもしれませんね。回復
がよいこともよくないこともありそうで、また手足を動かすよ
うになれば危険です。やたら食べ物も好き嫌いが多くなり、そ
れがすぐに変化するのがやっかいです。いまは甘いものが大好
き。ごはんも食べなかったのに最近はごはんだけでパクパクと
食べます。トイレに座るのが好きだったのに、最近はトイレに
座る? と聞くと首を振るようになってしまった。全体として幼
児的になっている面もあるけれど、応答などはずいぶんはっき
りしてきたし、体はよく動くようになってきている。リハビリ
で筋肉や腱を回復できても、やはり内面の回復は温泉ですね。

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退屈な夢

最近は長々とした夢をみる。本当に長いのかどうか
わからないけれど、少なくとも目覚めた時には相当
前から同じシチュエーションの夢の中にいるように
思える。それがまた特にどうということのない、私
小説的な世界で、だらだらと同じ場所で取り留めも
ないことを考えている。しかも一度目が覚めてまた
寝ると同じ夢の中で同じことを考えている。だから
次に目覚めた時にはまるで時間が経っていないよう
に思えるのだが、その間に3時間位過ぎていたりす
る。あまり考えることもなくなったのだろうかと思
う。確かに最近は電車の中で考え事をしていても、
さほど大きくストーリーが展開することはない。
それは不思議な感覚でもある。

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みどり先生の幸せ

温泉旅行中はテレビの位置が遠かったのでほとんど
見えなかったと思うし、他に気を紛らせるものはな
いのだけれど、みどり先生はこれ以上の幸せはない
という様子でにこにこしていた。お世話いただいた
トラベルヘルパーさんたちもみどり先生の顔をみて
いればとても癒されるという。1日に3回も入浴して
抱きかかえて入る私はくたくたになるが、みどり先
生は平気でもう上がるという合図をしない。それで
も湯あたりが心配なので、10分、10分くらいで上が
らせることになるが、それでも3回はきついようにも
思う。旅館の料理も2日目以降はレギュラーではなく
なるので、みどり先生の食べられるものばかりを用
意してくれた。3日目などはそれを一人前完食し、デ
ザートまで全部食べた。みどり先生のように自分に
与えられた環境を正しく理解して、その環境の中で
最も良い状態を楽しめる人って他にいるだろうかと
思う。みどり先生は生きることの天才だと思う。それ
が私の介護へのモチベーションにもなっており、それ
も考えてのことではないかと思う。

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