医師というのは医師と歯科医師にわかれているだけで、基本的には
どんな病気や創傷にも対応できることになっている。でも、耳鼻科とか
眼科の先生が脳外科とか精神科についてみんなが十分な見識を持っ
ているとは到底思えない。麻酔とか放射線とかを扱う場合にはそれぞ
れの免許に近いものが必要となるが、基本的には全員がオールマイティ
でなければならない。例えばペインクリニックのような高度な技術や知
識が必要な分野を単に麻酔免許を持っているというだけで行えばとて
も危険だし、多くの内科医師は眼科について十分な知識や技能を持って
いない。みどり先生がICUを最初に選んだのはICUが万能医師を要求し
ているからで、頭に斧を突き立てた患者の後に、なぜか急に足がもつれ
るようになったという患者や、農薬を飲んで自殺を図ったという患者がやっ
て来たりする。今ならMRや内視鏡があって、農薬が胃を閉ざしてしまって
いるか、洗浄するだけですむか、胃壁を突き破っているかもある程度わか
るが、少し前までは胃を洗浄するという程度のことしかできなかった。
それでもICUに担ぎ込まれた患者から肺塞栓症を見抜くのは結構難しい
ということだった。みどり先生の場合は胸部切開もせず、人工心肺とフィル
ターで一気に恢復したのは奇跡といえよう。みどり先生は帝京をやめて、
あちこちの病院での手術麻酔をしていた頃、めがね屋さんのバイトをして
いたこともある。めがね屋さんには医師がいなければならず、客が来たら
お決まりの問診をするだけというので、彼女が手がけた仕事では最も楽な
ものだったようだ。医師にもそんな楽な仕事があることも事実で、その頃に
は毎日のように私と遊びに行くことができた。最近のみどり先生は患者が
いる限り治療しなければならないという医師地獄に入り込んでいた。
オーストラリアへはどうしても行きたいので、2週間分の患者1週間で治療
することにした。その過労の結果が今の彼女となった。飛行機に乗ってしま
えば・・・ずっとそう考えて頑張っていたようだ。
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