医師たちは全員が今のみどり先生をとても幸せだという。全くのところ元気な
間の医師というのは全くの地獄だ。われわれも決して多忙さでは負けていな
いが、われわれは仕事を選択できるし、場合によっては投げ出してもあくまで
も自分に跳ね返るだけのものだが、医師の場合は法的にも道徳的にも大きな
責務を負わされていて、いつでもそうした責務が生じると働かなければならない。
みどり先生は帝京大学のICUにいた頃、当直中に救急車の音が聞こえるとあと
1分眠れると思って1分経つと起き上がってICUへ向かったという。道で自転車
で倒れて動かない人がいたので、何とかしてあげなくてもいいの? と聞くと、あ
れは大丈夫と答えて通り過ぎていった。でも、福家先生なら「どーれ」といって
医師であることを名乗り出るねという。飛行機で「お医者様がいらっしゃればご
連絡ください」といっても、みどり先生は最後まで名乗り出ない。大抵は一人ぐ
らいいるものだが、たぶん本当にいなければ名乗り出るのだろう。福家先生は
ずっと国際医療活動も行っていたが、大きな病院の重要な地位になってもまだ
ネパールには毎年行っているという。医師としての天才を持った人なのだろう。
そんな福家先生ですらみどり先生が幸せだという。医師地獄を抜け出すには
みどり先生のように倒れる以外にないということだと思う。
今日のみどり先生はアイスクリームを買っていってあげた(平石先生から3度
目のお見舞いをいただき、アイスクリームを食べさせてあげてといわれていた)
ので本当に幸せそうだった。動かなかった左手が毎日横寝を続けていると、よ
うやくぬいぐるみを抱くまで伸びるようになった。ほとんどの食事を完食し、私が
そろそろ帰るねといっても目をそらさずに頷いた。
帰ってからの私は地獄入りとなる。緊急にしなければならない書類とかメールの
返信とかを片付けて、洗濯して、原稿を一つ書き、お風呂に入り、イベリコ豚とつる
むらさきの炒め物をつくってビールを飲む。そしてようやくこのブログを書く。
記事の下に広告が表示される場合があります。この広告はexciteの広告枠で、当ブログとは無関係です。