一度は少し余裕ができたけれど、さすが年末にかかるとみどり先生が
倒れた頃のようなスケジュールに戻ってしまう。朝には幾つかの電話
交渉とレーテイング作成。昼ごろに東京中日の予想原稿を書き、みどり
先生の引き落とし不能の支払いや住所変更周りをして、午後は税理士
先生のところへ領収書や申告書、決算書などを届けると身体がふらふ
ら、頭がくらくらするほど疲れた。でもこんなときめじろ台までの電車で
眠れるのがありがたい。それにみどり先生に会うととても癒される。
ICUに入っていた頃は行っても手の施しようがなく、普通病棟に移って
もしばらくはできることがなかったが、やがて私の話しがわかるように
なると、新しい事態について話しながら、それに対する考え方などを
伝えることで、彼女に生きることへの意欲を持たせるのが重要になった。
その後も彼女への精神的なサポートは必要だが、ここに来て長い落ち
込みから抜け出してくれたように思う。でもそれで私の看病はさらに大
変になった。昼間は車椅子でセラピーさんが見てくれており、リハビリが
終わると眠っていることが多く、起きていても静かに何か考えている。
6時頃から夕食になるが、この時期は看護師さんが忙しくてあまり面倒
を観てもらえない。私は加湿器に水を足したり、首の位置を直したり、彼
女が唯一関心を持ってくれる結婚式のときの写真を見せたり、おむつが
濡れて気持ちが悪くなってあげている足を支えたりと、本格的な看病を
続けなければならない。今日は結婚式の写真を20分ほど見つめていた。
こうして一つでも記憶を持続してくれると、他の記憶喪失も防げそうに思
える。ベッドを平らに直そうとして下げていくと「イヤ、上がいい」と100%
聞き取れるお喋りをした。私が彼女の話に少し慣れたせいもあるが、彼
女も自分の喋れる音を選んで喋っているように思う。もう喋れるようになっ
たといって良いのかもしれない。みどり先生も話が通じたのが嬉しそうで、
面会時間が終わっても私の腕をしっかりつかんで離さなかった。そんな
みどり先生に会うと疲れが吹き飛ぶ。私にとっても最も楽しい時間だ。
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