みどり先生の症状はかなり特殊なもので、ドクターは脳梗塞や脳血栓などを
アナロジーとして彼女の症状を推測するが、あくまでも脳そのものが発症した
わけではなく、短期間酸素が送り込まれなかっただけだ。CTによる画像でも
ぼやけた部分があるだけで、その状態が判明しているわけではない。これ
までもドクターの予想に反して回復しているものも多く、結論付けるのはまだ
早いとも思える。最も重要なのは彼女の状態の観察だろう。今のところ確か
にドクターの予測にぴったり当てはまっているが、これまでもある時、急に新し
い面が出てきたことも少なくなく、あと半月ぐらい今の停滞が続けば諦めるこ
とにしたいとも思う。看護師さんの話では夜に全く眠らない日が多いという。
自分で脳を働かせていることが多いようだ。昼間にも起きている時はキラキラ
と眼を輝かせてじっと中空をみつめている。私が声をかけると、何か邪魔された
という感じで不機嫌になり、話しかけていると私の顔をじっと見つめるようにな
る。私が一緒のときに用便をもようしたりテレビを見たり、私がいると都合が良
いことをすることが多い。「あらいい笑顔ね。やはり旦那さんがいらっしゃると
随分違いますね」と看護師さんがいうが、私がいない時にはほとんど内宇宙に
トリップしているのかもしれない。つまり現実的な記憶と全く違うパターンやイ
メージによる記憶がありそうに思える。私が希望的にそんなことを考えている
だけかもしれないが、全く考えられないことでもない。
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