ドクターと話していて、私の考えの至らなさに気付かされた。あるいは
考えることを避けていたのかもしれない。記憶をつかさどる脳細胞が破
壊されているとすれば、今日の記憶も明日には忘れている。一度思い
出したことも次には忘れているということでもある。確かに今後、記憶を
取り戻すことも多いだろうが、それもまた定着するわけではない。基本
的に脳の働きはコンピュータと同じ原理で、アクティヴメモリーは活動し、
濃縮メモリーも引き出すことが可能だろうが、その中間のメモリーがフォ
ルダに入ってもすぐに消えてしまうことになる。病気発症後に一度は
思い出していたことが覚えていないのはそのせいだった。みどり先生は
それを長く繰り返すに違いない。アクティヴメモリーはかなり働くように
なり、身体もかなり健康を取り戻していても、これは治癒できるものでは
ないだろう。言葉を時々喋るようになりながら、喋ることが稀なのもその
せいだろう。人には自然治癒の能力があり、リハビリテーションによって
脳細胞をそれなりに迂回して使える面もあるだろうし、脳細胞そのものも
ある程度更新されるかもしれないが、それでもかなり時間がかかるはず
で、その間に年もとり、蓄積されるものはせいぜい生きることに必要なこ
とだけではないかと思える。思考力とか、直観力などがさほど痛んでいな
ければさらに可哀想なことと思う。最初はベジ状態と考えていただけに
現在の状態はやはり素晴らしいこととは思うのだが、一頃の回復力に期
待を抱きすぎたとも思う。当初に考えていたとおりに、彼女の生活レベル
に合わせて私のほうもずっと付き添いを続けなければならないだろう。
それまで考えることを避けてきた身障者登録を行おうと決心した。田舎
でのスローライフの準備にかからねばならない。少なくともみどり先生の
医師復帰は不可能と思う。
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