遅ればせながらスタニスワフ・レムの死を惜しみたい。いくつかの傑作を残した
作家というのは世界に5万といるけれど、作家そのものが限りなく完璧という
のは世界史においてレムただ一人だろう。本当に素晴らしい作家というのは
百科事典以上の知識を持ち、神学からも実存からも物理からも対応できる
崇高な哲学を持ち、社会のシステムを完璧に把握し、しかも全ての音楽や
美術を超える美学を持ち、むろんそれを無駄なく精密に表現できる文学者
でなければならない。レムはおそらく最もそうした完璧な作家に近く、おそら
くレムを超える作家は2度と出現することもないだろう。レム自身、大冊の文
学論、科学技術論、思想書を残しており、私自身まだ読んだわけではないが
レムの作品の濃密な文体や深い思想性、洞察力からそれがどんなものかは
簡単に想像できる。その断片は「完全な真空」、「虚数」などにも表れており、
レムの全集が刊行されれば、それはそのまま人間文明の百科全書となる。
ヴィトゲンシュタインとハイデガーを総合できたのはレムだし、ウエルズの文明
史とウイナーのサイハジティクスを総合できたのもレムだし、レムの作品や評論
にはありとあらゆる偉大な仕事がリンクされている。むろん日本に限らず世界の
ほとんどの国でレムの仕事を正しく評価されるまでには相当な時間が必要とさ
れるだろう。99%の読書家はまだ「ソラリス」のような入門編にとどまっており、
そこから「枯草熱」「星からの帰還」へ進むことすら容易ではないように思う。
でもまあ、いずれはレムだけで他は必要ないという時代になるのではないだろ
うか。レムはほぼ自分の仕事を完全に終えてから亡くなった。これだけ優れた
作家が、これだけ多くの作品を残したというのも珍しいと思う。アーメン。
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