昨日、足立正生の自宅でプロデューサーと会った。映画というのは企画が
始まってからクランクインするまでに大半が壊れるもので、関係者の強い意
志で進行して着実に実現していく演劇とか、ほとんど定まった軌道上を歩んで
いくテレビ番組などと大きく違うところといえよう。映画の場合は大手会社の
作品で、かなり準備に費用のかかったものでもお蔵になるケースは少なくなく、
従って映画で使われるお蔵という言葉に相当するものは他の分野にはない。
それだけ資金がかかるし、人出も多く、またギャンブル性も高い。同時にそれ
も取り組むほど魅力的な存在でもある。
日本映画界はギャンブルに長く負け続けてきた。優れた才能に投資せず、優れ
た製作システムを築こうともしなかった。その間にハリウッド=オーストラリアは
勝ち続け、かつてのハリウッド=アメリカの繁栄を取り戻した。今、映画は映像
ソフトとして新たな価値を付加し、資金面では以前と比較にならないほど恵まれ
るようになつた。にもかかわらず日本映画のギャンブルはワンマン体制で製作
可能なアニメーション以外は負け続けている。
私はもともとが映画人であり、たまたまそちらの面での才能にも恵まれていた
おかげで個人的に創造できる小説に転向することができた。しかし、その小説
がほとんど読まれなくなり・・といえば誤解もあるかもしれない。文学的な・・とい
うのも誤解があるかもしれない。これも誤解があるかもしれないが、前衛的な
小説といえば比較的正確なのだろう。少なくとも私の書く様な小説、私が出版
に協力し、評論してきたような小説がほとんど読まれなくなったとはいえると思う。
石川淳なんてほとんどの人が知らないし、カルペンティエールやマルケスが話題
を呼ぶこともほとんどない。でも、映画ではリンチとか、アルトマンとか、ウェアの
ような監督の作品が多くの人々に親しまれている。
最初は足立のためにアイデアを出したり、助言を与えたりする形で協力するつもり
だったのだが、足立とプロデューサーの強い要請に応えて共同脚本に取り組むこ
とになった。実現するかどうかは、要するに否応ない優れたものを作ればよいわ
けで、頑張ってみたいと思う。おそらく、競馬関係の各方面には少しご迷惑をかけ
るかもしれないが、過去にはもっと多くの仕事を平行してこなしているので、やれる
だろうと思う。
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