かつてラテンアメリカ文学叢書、ゴシック叢書といった重要な文学全集を刊行してきた
国書刊行会は、その後も断続的に貴重な世界文学の翻訳出版を続けてきたが(「ア
ーバンダート百科」も出していますね)、何というか、およそ30年振りというべき重要
なSF叢書を刊行し始めた。その1つはスタニスワフ・レム コレクションで、第1回配本
がポーランド語からの完訳版「ソラリス」(沼野充義訳 2520円)で、今回出た「高い
城・文学エッセイ」(沼野充義、巽孝之、芝田文乃・井上亜紀子訳 2800円)は自伝と
かつてNW=SFでも紹介されたディック論を含む評論集で、久々に胸のときめく読書
を経験することができた。レムは20世紀の最も重要な思想家で、個々の作品にもそ
れがうかがえるが、「対話」「技術大全」「偶然の哲学」「SFと未来学」といった重要な
著作は未訳のまま残されている。かつてこれらをサンリオSF文庫で紹介したいと考え
て版権を取得したのだが、ついに実現しないままサンリオSF文庫が刊行を停止した
ことは沼野さんがあとがきで触れているとおりである。レムに限らず重要な思想書や
文学書が刊行されることがなくなって久しく、どうもそれによって現代人の知性が退化
しているようにすら思えるが、そんな中で改めてレムの著作に接することができるの
は奇跡に近いとすら思う。
国書刊行会は「未来の文学」というシリーズも刊行し始めていて。イアン・ワトスンの
「エンベディング」(山形浩生訳 2520円)ジーン・ウルフの「ケルベロス第五の首」
(柳下毅一郎訳 2520円)など、やはりサンリオSF文庫に積み忘れた作品群が刊行
されるようになった。なんともすばらしいの一語に尽きる。
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