大社さんはその名が示すように日本ハムの大社家の人で、獣医課程に
進学したのも日本ハムの後継ぎの一人としてだった。しかし彼はミドリ十
字に入社して医療関係の仕事をするようになった。ミドリ十字が血液製剤
事件で崩壊直前に薬品の知見を主な業務とする現在のメビックス社を起こ
したが、事業は順調で東証マザーズに上場されるまで発展した。みどり先生
には大社さんが憧れの対象だった。事業の成功だけでなく、大社さんが馬券
の名人だったからでもあり、確かに私と3人で大井競馬場へ行くと、いつも数
十万円は儲けて帰りにご馳走してくれる。大社さんはJRAとNARのオーナーで、
私に馬を選んで欲しいと期待していた。大社さんにとっても私とみどり先生夫婦
は憧れの対象だったように思う。大社さんはみどり先生を見舞っても落ち着か
ず下へコーヒーでも飲みにいきましょうといった。「みどり先生のあんな姿を見る
のは耐えられない」という。獣医で医療の仕事をしている人がそんなことをいう
のはおかしいといいながら、ふと、多くの人がそう感じているのだろうとも思った。
Sさんに偉そうなことをいったときも、自分だって最初は泣いてばかりしていた
のにとうしろめたい気持ちになったが、「確かに仕事として医療をしているときと
親しい人がそうなったときでは違うものですね」といった。多くの人は思ったよ
り元気ねとか、肌つやがよく、眼が生き生きしているといってくれるが、それには
嘘があるのだろう。愛ゆえの本音と愛ゆえの嘘と、その両極端が出てしまうのが
本当なのかと思う。私だって悲しいし、とても辛いけれど、私は本音も嘘もいえな
い。できるのは端々に期待を紡いでいくだけ・・・
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